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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1821号 判決 1949年12月20日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人高橋武夫の上告趣意は末尾に添えた書面記載の通りである。

上告趣意第一点について。

昭和二四年五月二五日の原審公判廷において裁判長が裁判官全員一致の意見を以て前に為した公開禁止の決定を解く旨を言い渡していること及び同日の公判廷において審判の公開を禁止する旨を宣告した事跡の認められないことは洵に所論の通りである。

然し記録に徴すると昭和二三年一一月八日の原審公判廷において裁判長は本件審理が風俗を害する虞のある理由によって裁判官全員一致の意見を以て公開を禁止する旨を宣告したことが認められるから右公開禁止の決定の効力はその後の公判期日に及ぶものと解するのが相当であって大審院もこれと同様の判例を示して居り今これを改める必要は認められない(昭和六年(れ)第三〇六号、同年五月一四日大審院判決参照)。

然らば右公開禁止の決定を宣告してから後昭和二四年五月二五日の公判廷において公開禁止を解くまでの間右公開禁止の決定を解いた事跡の認められない本件においては昭和二三年一一月八日に為した公開禁止の決定の効力が昭和二四年五月二五日の公判期日にも及んで居るものと認めざるを得ないから同日の公判廷において公開禁止の決定を宣告した事跡の認められない一事を以て原審の訴訟手続に旧刑訴第四一〇條第七号に違反する違法があるとはいえない。

從って論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決が挙示の証拠により判示第二の事実として確定したところは被告人が判示第一の犯行の発覚を防止する為本件強姦の被害者江村幸子(当一八年)を一時監禁しようと企て同女を乗せた判示漁船を判示海上に回航碇泊せしめ昭和二三年五月八日午後一〇時頃から翌九日午前五時三〇分頃までの間同女を右船内に閉込めて上陸を不可能ならしめ以て同女を不法に監禁したというのである。

論旨は畢竟当時被告人は右船内において寢て居り前記江村幸子において海中に飛込み泳いで岸に着こうと思えば着くことが出來たにかかわらず敢てその挙に出ず同船内に止まっていたのであるから本件を不法監禁罪として処断した原判決には理由齟齬の違法があるというのである。

然し原判決が確定した事実に徴しても明らかなように被告人は海上沖会に碇泊中の漁船内に同女を閉込めたのであるから陸上の一区画に閉込めた場合と異り上陸しようとすれば岸まで泳ぐより外に方法はないのみならず時刻は深夜の事でもあり、しかも当時強姦による恐怖の念が尚継続していたものと認められないことはない本件の場合において同女が該漁船から脱出することは著しく困難なことであるといわなければならない。しかしてかかる場合は猶刑法にいわゆる「不法に人を監禁した」ものと解するのが相当である。

從って原判決が被告人の判示所為を不法監禁罪として処断したのは相当であって、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

よって旧刑訴第四四六條に從い主文の通り判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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